主宰作品 (平成26年6月号より)

 

  

烏鳴く 菅野孝夫

 

大震災の津波に根こそぎやられた陸前髙田の、太平洋にそそぐ気仙川は知る人ぞ知る渓流で、小生はその中流部の住田町というところで生まれ、山女も鮎も子供のころから天然ものを釣って遊んだ鰻は父に編んでもらった筌を夕方仕掛け、朝早く起きて揚げに行って捕った。一日に捕れるのは一匹か二匹程度だったが、ときどき五六匹も入っていることがあって、そんな時は大きな声で自慢したものである鮎の香は関東平野を流れる川のものとは別物で気高く、鰻も身が締まっていて、東京に出て初めて鰻を食べた時は「こんなものは鰻ではない」と思ったものだ川を見るだけでもいいから一度帰りたいと思いながら、父も母も兄も居なくなってしまった故郷は遠い。